学会長挨拶

ものごとの仕組みに注目する
—作業療法における問題解決の糸口として—

 世間の関心ごとは、ロシアによるウクライナ侵攻やウィズコロナの生活様式、絶えることのない自然災害による被災をはじめ、政治や物価の高騰など心を休める暇がないといった感じである。そしてそれらの状況は短期間で解決するとは思えない。作業療法界も新型コロナウイルス感染症のため、臨床現場や教育現場でも多大な制限を受け、学会運営もICTを用いた開催を余儀なくされた。今となっては、学会や研修会の多くが遠隔で開催されていることを皆さんも実感しているであろう。
 世間が関心をおくのは、単に興味深いからだけではなく、自身の生活に影響を受けるのではないかと感じるからだろう。自分に関係のある環境の変化は、自分には関係のない環境の変化よりも重要であると感じるし、すぐにでも対処せねばならない事項ととらえてしまう。一見、自己中心的な判断であるように思うが、個を維持する上ではしごくまっとうな判断である。まずは個が大切であり、個を守らねば他に関わることはできない。主観的な体験や経験が人の行動を左右する。こういった「生きる上での仕組み」を意識することで、他者の行動を理解することができる。ものごとには仕組みが存在する。残念ながらすべての仕組みが判明しているわけではない。しかし、仕組みは分かっているがそれを知らないという状況もある。今まで知らなかった仕組みに気づいたとき、対応策が見つかることがある。仕組みを知らないと、いつまでも試行錯誤が続いたり、不安が高まって合理的な行動が取れない。
 本学会ではそういったものごとの仕組みに着目することで、作業療法を実践する上での問題解決に少しでも役立つような場を提供したいと考えた。人の特徴や、人の営みのみならず、生活環境(道具や設備をはじめ、理論や制度など)も、ものごととして視野に入れ、作業療法を進めて欲しい。
 以上のような考えから、本学会のテーマを「ものごとの仕組みに注目する—作業療法における問題解決の糸口として—」とした。可能な限り「ものごとの仕組み」に注目し、作業療法の発展や会員諸氏の研鑽の場となるよう、基調講演、教育講演、シンポジウム、各種セミナーを企画している。なにより、たくさんの一般演題(口述発表、ポスター発表)にも「仕組み」が含まれているだろうし、気づきの場になると期待している。
 長らく9月に開催されていた本学会は、第57回から11月開催となった。これは豪雨や台風による会員の参加にともなうリスクを減じようとする試みである。環境による影響を極力少なくすることが目的であった。台風は夏前後に発生しやすいという既知の「仕組み」を日本作業療法士協会が問題視し、その対処を行ったものである。

  • 第57回日本作業療法学会
    学会長長尾 徹
    (神戸大学 大学院保健学研究科)